ちょうど、WAIS-Ⅲの検査が終わった時だった
「何でこんなことしなきゃいけないのっ!」
「あ~~っ、もう、疲れたっ!」
「あ~~っ、しんどいよっ!」
「意味わかんないっ!」
「これっ、する意味あるぅ?」
自立支援医療申請のサポートで
こころのクリニックに同席をしていた時、
支援対象者の彼(Aさん)が発したセリフ…
担当医の目の前
廊下まで聞こえるような大きな声だった…
私は、思わず心の中でため息をついてしまった…
(はぁぁぁ………)
(これは、誰のための検査なのか?)
(この検査は、何で行っているか分かってる?)
声に出してしまいそうになる…
(いけないっ…)
一瞬だが、フッと頭の中で考えてしまった自分…
(まだまだ、人間ができていない…)
冷静に思考回路を回すため
ちょっと、深呼吸をしてみた
(ふぅぅぅ~~~~っ、)※一度息を全部吐いてから
(すぅぅぅ~~~~~~~っ、)
(はぁぁぁ~~~~~っ!)
少し自分を取り戻した私は
目線を戻す
Aさんは、まだ、
独り言とは思えない声のボリュームでブツブツ言い続けている…
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いつも私の拙い記事を読んで下さり
本当にありがとうございます!
私自身の福祉業界20数年間の体験を
"放浪記"として始めたブログですが、
まだ、season1 を書き始めたばかりです。
しかし…
今回の内容がseason11に当てはまるのでは?
という事に気づいてしまいました。
現在進行形がseason11です。
なので、この度の記事を放浪記として
掲載したいと思います。
まだ、season2〜season10を
掲載していませんが
なるべく放浪記・season1から順次アップ
出来るようにしていきたいと思います。
気長にお付き合い頂ければ幸いです。
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Aさんが、私たちに「助けてっ!」と
声をあげたのは5か月前
母親が動けなくなった時、
定期的に通っている薬局の薬剤師さんの言葉を思い出し
私たちに電話をかけてきた
恐らく、
そこへ行きつくまでに数日はかかっただろう…
「お母さんが、動けなくて!」
「お母さんが、足が痛くて動けないんだ!」
「毎年初詣に家族で行くんだけど…」
話す内容はあっちこっちに飛ぶ…
しかし、必死に伝えようとしていることは感じ取れる
こんな時は、
急かさず時間をかけ
相手のペースで話してもらい
聞いた情報を手元でノートに書き込みながら整理していく
色々と全体像を把握するまでに時間はかかったが
何となく事情は呑み込めた
病気の事や
注射のこと(インシュリン注射)
受診が滞っていることも
色々な不安をいっぱい話してくれた
父親が7度も転勤したことや
18時に必ずお風呂に入ることまで…(笑)
話す口調が少し落ち着いたところで
Aさんと母親に私たちが会いたいことを伝えてみる…
一瞬、考え込むAさん
「わかった、うちに来てくれるの?」
「いつ? 何人で?」
二転三転する日程調整…
一日一日のルーティンが決まっているようだ…
決まり事は動かせない…
納得いくまでAさんの都合に合わせ調整する
緊急の初回訪問
Aさんとのファーストコンタクト
おどおどしながら話すAさん…
何かしらの発達障害があることは直ぐに察した
玄関先で身構える母親
「あなた達は何なの?」
「私にいったい何の用?」
言葉に出さないが顔つきから伝わってくる…
「こんにちは!」
「仕事で、この地域のみなさんの様子を伺っているんです!」
「今日は、Aさんとお話がしたくておじゃましました!」
自分のことではないと分かるや否や
”息子のことなら”と機嫌よく招き入れてくれる母親
「おじゃましまぁ~す!」
「失礼しまぁ~す!」
靴を脱ぎ、廊下へ行こうと進みだした時、
急に足を止め振り返るAさん
止まったAさんの手前で慌てて急停止するスタッフ
ドンッドンッ… 3人が玉突きのようにぶつかる…
「あっ、玄関のカギはかけて下さい!」
思い出したように言うAさん
「あっ、はいっ、カギをかけておきますね!」
最後尾のスタッフがカギをかける
ガチャッ…
カギをかける音を聞いて安心するAさん…
歩き出したAさんの案内でリビングへ
踊り場を右へ
真っ直ぐ続く廊下には通販で購入したサプリなどが
封も開けずに複数置いてある…
「こっちへ入って下さい…」
先に入るAさん
後に続く私たち
リビングに足を踏み入れる
目の前に広がる光景…
表情には出さず
周りには分からないほどの
目の動きだけでアイコンタクトをとる
3人のスタッフ
テーブルの上は物で散乱
一応、種類を分けて冊子は積み上げている…
同じ空き瓶がカウンターに並ぶ…
山積みになっているスーパーの袋…
言葉に出さずとも
スタッフ3名が瞬時に役割分担
私は、Aさんからこれまでの経緯をアセスメント
もう一人のスタッフ(看護師)が母親の体調をチェックしながら
同時進行で母親の受診調整
そして、もう一人のスタッフが生活環境をさりげなく観察し情報収集
他に親族がいないか探す…
妹さん(Aさんの)がいた…
連絡先を確認、方向性が見えてきたら連絡することにする
母親の持病を確認
色々と問題が発覚する
受診の必要性が高まり
無理くりかかりつけの病院へ受診予約をねじ込むスタッフ
(医療系に関してはガンガン動いてくれる頼もしい看護師のスタッフ)
母親の支援とAさんにも支援の必要があると感じるが…
もう少し情報が欲しい…
Aさんとの関係性を構築しながら
母親に受診が必要なことを伝える
「私は、病院へ行かなくても大丈夫よ!」
「ちゃんとご飯も食べてるし」
「だから、この前、病院の予約を断ったのよ」
受診を全く必要と感じていない母親…
「お母さんがそう言うんだったら行かなくても…」
母親の言葉に流され判断に迷うAさん…
Aさんに提案をしてみる
「妹さんに相談してみたらどうですか?」
「いやっ、妹に聞いても分からないと思う…」
Aさんの口調から
”お兄ちゃんのプライド”みたいなものが感じ取れる
私から、母親にお願いをしてみる
「娘さんと電話で話をしてみても良いですか?」
深く考えていない母親はすんなりOKをくれる
「いいわよ、話しても」
このチャンスを逃さないよう丁寧に話を進める
「Aさん、お母さんが話しても良いと言っていますが、
妹さんに電話をかけても良いですか?」
「イヤでしたら、止めておきますが…」
Aさんの返事をジッと待つ…
「うぅぅ~~ん…」
「僕ではうまく病院のことは説明できないし…」
モゴモゴと本音がこぼれ出るAさん
(電話することがイヤなのではなく、説明が難しいようだ)
「そうですよね、説明は難しいですよね」
「では、病院の事は私が代わりに説明しましょうか?」
Aさんの本音の部分を補う提案をする
「えっ!?」
「説明してくれるの?」
表情が少し和らぐAさん
「私で良ければ、代わりに説明しますよ?」
Aさんと母親の顔を交互に見ながら答える私
「じゃあ、妹に電話しようかな…」
Aさんが受話器を持ってボタンを押す
しばらくコール音が鳴って
「あっ、Yっ?、僕っ!うんっ!」
「お母さんのことで電話したんだわ」
「うんっ!、そんで今、来てもらってるんだわっ!」
「ちょっと職員の人に代わるねっ!」
あっという間に受話器が私の前に…
挨拶も手短に訪問へ至るまでの経緯と
母親への支援について簡潔に伝える
兄の動きは知っていたようだ
「そうだったんですね、ありがとうございます」
呑み込みの早い妹さん
母親の受診にはAさんと一緒に妹さんも同行してくれることになった
「Yさんも一緒に病院へ行ってくれるそうですよ?」
病院へ行く行かないではなく
Yさんが一緒ということに焦点をずらして
母親へ伝えると
「あら、そうなの?」
「じゃあ、行こうかしら?」
深く考えない母親は直ぐにOK
「だったら、私も一緒に行きますね?」
スタッフ(看護師)がニッコリしながら言う
「えっ!?一緒に来てくれるの?」
喜ぶ母親
(行く行かない問題は解決!)
母親としっかり関係性を作っているスタッフ(看護師)
何とか受診まで漕ぎ付けた
その後、日を改めて
母親の受診へ同行するが…
②へつづく・・・
冒頭に書いたWAIS-Ⅲ(ウェイス・スリー)とは・・・
WAIS-IIIは、Wechsler Adult Intelligence Scale 3rd editionのことで、16歳以上の方に適応される知能検査です。
知能検査の目的は、知能指数(IQ)を測定することですが、WAIS-IIIを行う意味は、知能指数を想定するよりも測定する際の様々な検査の結果から、その方の得意な面、不得意な面について客観的に把握することにあります。
重要なのは、これからその方が生活していく上で、自分が何が得意で何が不得意であるかを分かることです。
その上で、得意不得意の部分を知って、不得意部分を工夫で補い、得意な部分が十分に発揮できるような環境(職業)を選択したり、作ったりしていくことができるということがしやすくなります。
発達障害の診断のためには、必ずしもWAIS-IIIは必須ではありませんが、うまく活用することはできます。