こ〜たろ〜 の 「介護放浪記」

福祉・介護の世界で着のみ着のままに放浪中~!息抜き8割、本業2割、でなきゃ続けていけません…。

介護放浪記・season1 ⑥人事異動

「こ〜たろ〜君」

 

「看護師を目指してみない?」

 

「学費は病院持ちで…」

 

「学校は3年制の学校なんだけど」

 

「土日はここの夜勤をしてもらってね…」

 

「うちの医療機関でこれからも働いてくれなら

そう考えているんだけど…」

 

 

 

看護部長は

私を真っ直ぐ見て

そう話し始めた…

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

無資格、未経験で始めた介護の仕事

 

私が勤務している病棟を仕切るのは

T看護課長

 

半年が過ぎた頃から

課長が出勤の時はいつも

「こ〜たろ〜君、行くよ!」と言われ

課長と一緒に行動することが増えた

 

 

課長の担当業務に

一緒について回るので

必然的に

色々な処置の場面を見させてくれる

 

 

一人ひとりの患者さんの説明や

様々な病気

治療方法など

現場で教えられることは

何でも教えてくれた…

 

 

「どう?」

「楽しい?」

「分からないところはある?」

時々課長に尋ねられる

 

「勉強になりますっ!」

(知りたいと思うことを学べるのは

何かと楽しい)

 

(学生時代に学ぶことが楽しいと思えたら

また違ったかも…)

 

 

ケアワーカー業務をこなしながら

看護師の業務にもついて回る

 

 

やり甲斐はある

 

 

そんな毎日を過ごしていた

 

 

1年が過ぎた頃

ある日

看護部長に呼ばれた…

 

(何かやらかしたかな?)💦

 

色々と普段の行いを思い出すが

呼ばれるようなことをした覚えもなく

訳もわからず看護部長室へ

 

 

部長室の前に立ち

フッと思い出す…

 

(ここへ来るのは1年ぶりかな?)

 

1年ちょっと前

採用面接の時以来だ…

 

 

「失礼しますっ!」

ノックをして

中からの返事を待つ私…

 

「どうぞぉ〜」

直ぐに返事があった

 

ガチャっとドアノブを回す

 

正面の机にN部長が

入り口を向いて座っている

 

「入ってっ!」

口調は穏やか…

 

 

(怒ってなさそうだね?)

 

手前の応接用ソファーへ促され

テーブルを挟んで向き合うように座る

 

 

ニコッと笑って

N看護部長が話し出した

 

 

「こ〜たろ〜君」

 

「看護師を目指してみない?」

 

「学費は病院持ちで…」

 

「学校は3年制の学校なんだけど」

 

「土日はここの夜勤をしてもらってね…」

 

「うちの医療機関でこれからも働いてくれなら

そう考えているんだけど…」

 

 

 

看護部長は

私を真っ直ぐ見て

そう話してくれた…

 

 

(看護師?……)

考えてもいなかった…

 

 

そういえば…

同じ職場に1人

病院が学費を負担して

平日は学校

土日だけ病棟勤務をしている

スタッフを思い出した

 

 

少し間をおいて考えた…

 

 

 

しかし

 

私には

切実な問題がある…

 

 

「N部長…」

「ありがとうございます…」

「ただ……」

 

話を続けようとしたところを

N部長がスッと割って入った…

 

「彼女のこと?」

N部長は私の言おうとすることを

理解してた…

 

 

採用面接の時に

何故この仕事を選んだのか

質問された時に

彼女のことを話したからだ…

 

 

私には

同居している彼女がいた

彼女は毎日通院をしなければならない

両手に松葉杖をついて歩く…

 

自由に動かない左足…

 

膝の可動域にも制限がある

 

そんなこともあり

通院する病院の前にあるマンションに

部屋を借りている

 

私が仕事で居ない時でも

あまり負担をかけずに

通院できるように…

 

 

「すみません…」

「大変ありがたいお話なのですが…」

「生活があるので学生にはなれません…」

 

N部長は

私が何と答えるか分かっていたようだ

 

 

「看護師の仕事はとてもやり甲斐があります」

「だけど、平日に学校、それに週末の夜勤では…」

「彼女に向き合う時間がありません…」

「とても良いお話なのですが…」

「… … … … …。」

これ以上

言葉にしなかった私に

 

 

「生活はやっていけてるの?」

事情を知っているN部長は心配する…

 

 

「カツカツですが何とか…」

苦笑いする私…

 

 

当然N部長は

私が安月給なのも知っている…

 

 

気持ちを切り替えたN部長が

私にさらに聞いてくる

「もう少し夜勤の回数が増えても大丈夫?」

 

 

(5〜6回くらいなら大丈夫かな?)

そう考えていると

 

私の返事を待たずに話すN部長

「知ってると思うけど」

「年明けに特養と老健がオープンするのよね…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

病院の敷地内に現在建設中なのは知っている

毎週火曜日の全体朝礼で

厚労省が打ち上げたゴールドプランに合わせ

うちの病院が医療法人で老健を開設

更に全体をまとめるK会グループを立ち上げ

傘下に社会福祉法人も設立し特養を開設する

毎回事務長が話をしているので

嫌でも覚える…

介護保険制度に合わせて

厚労省が新たに進める
ゴールドプラン構想の第一歩だそうだ…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

N部長が続けて話す…

 

「こ〜たろ〜君」

「特養のオープニング手伝ってみる?」

「勉強になるわよ?」

 

(特養?…)

 

(オープニング?…)

 

「夜勤が増えるけど…」

「その分手当ても基本給も上がるから」

「もう少し、生活が楽になると思うわよ?」

「興味ある?」

 

 

黙ってうなずく私…

 

 

「分かりました」

「では、そっちの方向で…」

「看護師の件は残念だけど…」

「少しでもあなたのプラスになるならいいわね?」

ニッコリ笑うN部長

 

「あぁ、それと…」

「M看護師長にはあなたの彼女のこと話すわよ?」

 

(ん? 何でM師長?)

 

M看護師長は私が勤務する4Fの看護師長だ…

 

 

「特養の現場責任者にM看護師長がなるのよ…」

 

(へぇ〜〜…)

 

(だけど何で?)

 

不思議がる私にN部長が一言付け加える

 

「それに、病院枠であなたを看護学校へ推薦してきたのはM看護師長なのよ?」

 

「えっ!」

思わず声に出てしまった…

 

 

 

私が何故

介護の世界に足を踏み入れたのか

N看護部長は知っている…

 

そして

後に分かったことだが

M看護師長は

私の彼女を知っていた…

 

 

 

こうして半年後…

 

法人をまたいで

企業グループ内の異動が決まった…