こ〜たろ〜 の 「介護放浪記」

福祉・介護の世界で着のみ着のままに放浪中~!息抜き8割、本業2割、でなきゃ続けていけません…。

介護放浪記・season11 ②人を知ること・理解すること(後編)

「どうやって行くの?」

 

「無理っ!」

 

「無理っ!無理っ!無理~っ!」

 

「無理だよっ!」

 

「絶対っ!」

 

「歩けないでしょっ?」

 

「これじゃあ行けないよっ!」

 

Aさんは、玄関先まで歩く母親を見て

声を張り上げるように叫んでいる…

 

ちょうどその場面に

スタッフが到着したようだ…

 

 

 

(前編)に興味をお持ちの方は、こちらからお願いします↓

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通院当日…

 

私は、どうしても外せない初回面談があり

母親との関係構築ができているスタッフ(看護師)が

通院対応をしてくれた。

 

 

(まぁ、普通に考えて、私が行くよりも

医療のエキスパートに同行してもらう方が

利にかなっている…)

 

 

 

1階エントランスにあるエレベーター

構造上、建物の手前側に設置されている

 

親子が住む住居は

マンションの中層階

エレベーターを中心に

左側に3世帯

右側に7世帯ほどある一番奥に位置する

 

健康な私たちでも結構な距離…

エレベーターから30mほど歩く…

 

 

約束の時間より少し早めに到着したスタッフ

1階の入り口前に車を停め

トランクからある物を出した…

 

そのある物(用具)を押しながらエレベーターへ

 

スゥーーーーっと扉が開き

居住フロアへ

 

降りて右へ曲がり

ある物を押しながらスタッフは奥へ奥へと…

 

「だからぁ~~っ!」

「無理でしょっ!? 」

 

4~5世帯くらいの玄関ドアを通り過ぎたあたりから

何やら物々しい奇声にも近い声が聞こえてきた…

 

(んっ!?)

(もしかして…)

 

予想通り、Aさん親子だ…

 

張り上げる声の内容からも

大体の状況は掴めた

 

母親が無理して玄関先まで歩いている…

 

(「リビングで待っていてね?」)

 

先日、そう何度も何度も話しかけていたが

そうはいかなかったようだ…

 

几帳面で時間を気にするAさんが

母親を急かし

玄関まで出てくるよう促している…

 

 

汗だくのAさん

余裕のない顔つき

スタッフが来たのを見つけて

 

「あっ!!」

「来たっ!」

「もう、大変なんだよぉ~~~っ!」

 

玄関のドアを足で止めながら

汗を拭き始めるAさん…

半端ない汗の量だ…

 

玄関の奥を覗きこむと

半分靴を履きかけてる母親…

 

「なかなか靴が履けなくて…」

母親を見ながらボソッとAさん…

手伝う訳でもない…

 

サッと手伝うスタッフ

 

 

「こんなんじゃ、病院行けないでしょっ?」
「ここ歩けないでしょう?」

エレベーターまでの通路を指さすAさん…

 

「ねぇ!?」
「無理でしょ?」

頭の中は”行けない”の文字でいっぱい…

 

そんなAさんを見て

スタッフが一言

「Aさん、そこの車椅子をこちらへ持ってきてくれますか?」

 

「えっ!?」
「これっ?」
「そっちへ持って行ったらいいの?」

 

「ありがとうございます」

車椅子をサッと引き寄せ

お母さんの腰を軽く抑え

座面へ誘導するスタッフ

 

スッと腰を下ろす

 

その間、数十秒…

 

さっきまで騒いでたAさんが静かになった…

 

 

ボソッとAさん

「へぇ〜〜っ」
「そんなん出来るんだ…」

 

 

「さっ、戸締りをして出かけましょう」

何も無かったかのように親子に話しかけるスタッフ

 

 

一路、病院へ…

 

 

病院へ着くとAさんの妹が入り口で待っていた

 

「あっ!Yだぁ!」

 

嬉しそうに言うAさん…

 

母親は、「あなたも来たの?」というような表情で娘を見る

 

「この度は、すみません」

「よろしくお願いします」とお辞儀するYさん

 

親子3人と一緒に中へ入る

 

受付で声をかけると 

 

地域連携室の看護師が足早にやって来た

 

事前に打ち合わせをしていたので

直ぐに診察室前に案内された

 

さほど待つこともなく名前を呼ばれた

「Hさぁ~ん」

「診察室へどうぞ!」

 

血糖値の測定

血液検査

 

待合スペースで検査結果が出るまで待つことに

 

落ち着きのないAさん

キョロキョロ周りを見ながら

「いっぱい人がいるねぇ~」

 

すれ違う人を目で追う

 

30分ほど待ったであろうか

Aさんは、もう病院の待合スペースに飽きたようだ…

何やら独り言を喋っている…

 

 

再び名前を呼ばれ

診察してへ…

 

担当医が母親に分かりやすく説明をしてくれた

 

丁寧に順序立てて話を進める

むしろ、後ろにいるAさんに分かるようにといった感じだ…

 

血糖値上昇

脱水症状

食欲低下など

糖尿病憎悪が見られる

 

結果、通院での治療は難しいと判断

血糖コントロールの為、このまま入院に…

 

 「えっ!?」
「入院っ?」

表情が固まり

スゥーーーーッと血の気が引くAさん…

 

入院手続きを進める為

一旦、診察室の外へ

 

診察室を出るや否や

「お母さんが入院するなんて聞いてないよっ!」
「聞いてないっ!」
「何で?」
「お医者さんに診てもらうだけのはずでしょっ?」
 「そんなんっ、聞いてないっ!」 
「何でっ!?」 

 

 

 

それもそのはず

今、入院が決まったのだ

 みんな聞いていない…

 

 

「わぁぁぁぁぁ~~~~~~~っ!」

 

上半身を丸め

両手で顔を覆い

泣き始めたAさん…

 

院内に響き渡るほど大きな声で…

 

周りも気にせず泣く子供のように…

 

 

母親も妹もこんなAさんを見るのは初めてのようだ…

 

「仕方ないわねぇ~」というような表情で見つめる母親…

 

色々と気を遣っていた妹Yさんは

泣きじゃくる兄をみて

疲労が一気に押し寄せたのか

ベンチに座り込んでこめかみを抑える…

 

 

思いっきり個性を表現するAさん…

今までずっと両親に守られて育ってきた…

 

7年ほど前

父親を亡くした時は

ずっとそばに母親がいた…

 

今回、人生の中で初めて

一人で生活をしなくてはいけない

 

母親が帰れないこと

自分一人になること

これから生活をどうするのか…

 

色々なことが一気に頭の中に押し寄せる

混乱した気持ちを落ち着かせる術を知らない…

 

両親が守ってくれてたから

周りの目など気にせず生きてきた

 

だからこそ

躊躇なく泣くという行為で

自分の感情を素直に表現ができたのだ…

 

 

 これから2ヶ月間

一人の生活が始まる…