ケアワーカー(看護助手)の仕事を始めて2週間、患者さん30名の氏名も覚えた頃、午後からの業務で爪切りを担当した。
誰でも自分の爪切りは経験あるだろうが、他人の爪を切るという経験は、子育て経験がある人以外はなかなかないと思う。
ましてや、子供などの身内ではなく、全くの赤の他人の爪切りとなると、医療従事者や福祉関連の仕事をしていなければ、そのような機会は先ずないだろう。
私自身、この仕事をやらなければ、人の爪を切るなんてことは、一生なかったかもしれない。
ということで、
1人目は、寝たきりのお婆ちゃん。(本当は患者さんと呼ばなければいけない)
全く動くことなく、全てのことに介助が必要な方だ。
声かけにもあまり反応がなく、目を開けることもほとんどない。
でも、ちゃんと聞こえていると思う。
爪切り用ニッパーや消毒液、ゴム手袋など必要物品を載せた台車を押してベッドサイドへ。
「◯◯さん!」
「起きてますか?」
「今から、爪を切らせていただきますね?」
反応はないけど、聞こえているようだ。
「少し頭の方を上げさせて下さいね!」
ゆっくりとギャッジアップをする。(この時代は、ベッドの足元側の下にハンドルがあり、これを回してギャッジアップをする)
お婆ちゃんの左手の指から順番に爪を切り、ベッドの反対側へ回り右手の爪も。
ほとんど動かないお婆ちゃんの爪切りは、そんなに難しくない。
「◯◯さん!終わりましたよ!」
反応はないが、何となく表情が少し柔らかくなったような感じがする。(私個人の感想)
2人目、3人目と問題なく爪切りを終える。
会話のキャッチボールができる患者さんは、協力的なので助かる。
4人目。
認知症状が進み、会話が成立しないお婆ちゃん。
とても明るく良く喋るが、話題は一瞬であっちこっちへ飛ぶ話題豊富な人だ。
入浴時も言葉では伝わらないので、本能的にお風呂が"怖いものではない"ということを五感へ働きかけ伝えていかないと暴れる。
流れ作業のお風呂タイムでは、着脱介助に形だけの声かけをする職員が担当すると、怖がって暴れていた。
早く入浴を進めたい職員とは裏腹に、"入浴"という言葉の意味が理解できない側からすれば、何か分からない言葉を言ってきて、いきなり服を脱がされ始めたら、そりゃ〜"怖い"と思うのが当たり前だ。
爪切りも然り。
何か分からないが、ニッコリ笑った人が自分の手をとり、キラキラ光る物で指先をいきなりバチンッ、パチンッと切り始め、指先に違和感のある刺激が伝わる。
爪切りを理解できなければ、指先に感じるこの刺激は心地よくない。
他の患者さんよりも導入部分に時間をかける。
優しく微笑みながらゆっくり近づく...
(私は怪しい者ではないよ...)
そっと優しく手をさする.,.
(私が触れることを受け入れてもらう)
指先などに触れながら、爪を触ることに慣れてもらう...
お婆ちゃんの話題豊富な会話を受けとめながら...
このようなことをじっくり積み重ね、そろそろ大丈夫かな?っという雰囲気になったところで、慌てず少しずつ始める。
パチンっ...
パチンっ...
順調に進み、左手が無事に終わった。
さあ、右手...
ゆっくり、焦らずに...
パチンっ
パチンっ
親指、人差し指と順調に進む。
そして、中指の爪を切ろうと爪切りに力を入れた瞬間...
ガラガラガラ〜!
1人の看護師が勢い良く台車を押して病室へ入って来た!
「検温で〜す!」
びっくりして手を動かすお婆ちゃん。
動かすと同時にパチンっ!
爪切りが音をたてる!
「痛っ!」
リアルに反応するお婆ちゃん!
はっ!っと爪切りを引くと。
お婆ちゃんの中指の先からピューっと赤い細い糸が伸びるように血が吹き出した!
(あっ!やばっ!)
漫画のように吹き出た血を見て、コンマ数秒だが眺めてしまった...
こんな風に血が吹き出ることあるんだ...
しかし、一瞬で我に戻ると
直ぐに中指を抑えて出血を止めにかかった。
吹き出る瞬間を見ていたさっきの看護師が、直ぐに近寄ってき処置をしてくれた。
「すみません。◯◯さん、大丈夫ですか?」
「申し訳ありませんでした」
パチンっとやってしまった一瞬だけ、本当に痛そうな表情になっていたが
看護師がバツが悪そうに処置をしてくれたあとは、ケロッとしていてもう忘れてしまったのか違う話をしている。
改めて謝罪するが、お婆ちゃんには何のことか分からないようだった...。😓
う〜〜ん、いいんだか悪いんだか...😓
後日、面会に来られたご主人さんへ、再度謝罪をしました...🙇